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東京地方裁判所 平成7年(特わ)363号 判決

裁判所書記官

河上基也

本店所在地

東京都台東区東上野二丁目一九番九号

株式会社富士産業

右代表者代表取締役

鈴木梓

本籍

東京都豊島区高田二丁目四五七番地

住居

同都足立区千住関屋町一七番一五-一-一四一六号

会社役員

鈴木梓

昭和一二年二月四日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官長島裕、弁護人横地正義各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社富士産業を罰金一二〇〇万円に

被告人鈴木梓を懲役一〇月に処する。

被告人鈴木梓に対し、この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、その二分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社富士産業(以下「被告会社」という)は、東京都台東区東上野二丁目一九番九号(平成六年六月二〇日以前は同都江戸川区南小岩八丁目三番一五号)に本店を置き、遊技用電子機器の販売等を目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人鈴木梓(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入及び架空給与手当等を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成元年一一月一日から平成二年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二七八一万二二九七円(別紙1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、確定申告書提出期限内である平成三年一月三一日、東京都江戸川区平井一丁目一六番地一一号所在の所轄江戸川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五〇四万九八一六円でこれに対する法人税額が一三六万九三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第七二二号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一〇一四万九九〇〇円と右申告税額との差額八七八万〇六〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成二年一一月一日から平成三年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一一五七万一五九一円(別紙2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、確定申告書提出期限内である平成四年一月三一日、前記江戸川税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が六五六万九六五二円で、納付すべき税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三四一万六五〇〇円(別紙5のほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成三年一一月一日から平成四年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二二一六万二七二八円(別紙3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、確定申告書提出期限内である平成五年二月一日、前記江戸川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二七六二万一五三四円でこれに対する法人税額が九五三万九〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四四九九万一九〇〇円と右申告税額との差額三五四五万二九〇〇円(別紙6のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書七通

一  金陽美及び渡邊幹康の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の給与手当調査書、賞与調査書、事業税認定損調査書及び領置てん末書

一  検察事務官作成の給与手当及び税務署所在地に関する各捜査報告書

一  登記官作成の登記簿及び登記簿閉鎖役員欄用紙(二通)の各謄本

一  押収してある「申告期限の延長の特例の申請書」一袋(平成七年押第七二二号の4)

判示第一及び第三の事実について

一  大蔵事務官作成の売上高調査書及び役員報酬調査書

判示第二及び第三の事実について

一  大蔵事務官作成の仕入高調査書

一  検察事務官作成の退職給与引当金繰入超過額についての捜査報告書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の雑収入調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同押号の1)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の租税公課調査書及び申告欠損金調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同押号の2)

判示第三の事実について

一  証人渡邊幹康、同鈴木孝樹及び鈴木雄一の当公判廷における各供述

一  大蔵事務官作成の期末棚卸高調査書、旅費交通費調査書、地代家賃調査書及び雑給調査書

一  検察事務官作成の賞与引当金繰入超過額についての捜査報告書

一  検察事務官作成の証拠物の写添付の捜査報告書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(前同押号の3)

(法令の適用)

※ 以下の「刑法」は、平成七年法律第九一号による改正前のものである。

一  罰条

1  被告会社

判示第一ないし第三の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一項(第一の罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)。判示第三の事実につき、情状により、さらに法人税法一五九条二項。

2  被告人

判示第一ないし第三の各所為につき、法人税法一五九条一項(第一の罰金刑の寡額につき、前同)。

二  刑種の選択

被告人につき、懲役刑。

三  併合罪の処理

1  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項。

2  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)。

四  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項。

五  訴訟費用

刑訴法一八一条一項本文。

(弁護人の主張に対する判断)

一  弁護人は、判示第三の事実(平成四年一〇月期)に関し、〈1〉有限会社ジェイズアクティに対するパチスロ機七二台分二六六四万円の売上除外及びこれに伴う期末棚卸高三六万円の仮装計上は、渡邊幹康税理士(被告会社の顧問)が過誤によりなしたもので、被告人にこの点の故意はない、〈2〉被告人の肩書き住居は被告会社の社宅としても利用されていたから、その地代家賃四六六万〇一九五円は、経費として認容されるべきである(架空計上した経費とみるべきではない)、旨主張する。そこで、以下検討する。

二  所論〈1〉について

関係証拠によると、被告会社は平成四年三月一日有限会社ジェイズアクティに対し、パチスロ機七二台を代金二六六四万円で売却し、同年一一月下旬以降になって、中古になった右パチスロ機七二台を一台当たり五千円で引き取る旨の下取り契約を締結し、同年一二月二五日にその金額を同社に支払っていることが認められる。したがって、右二六六四万円は平成四年一〇月期(以下、当期という)の売上として計上されるべきであることは明らかである(弁護人もこの点は争っていない)。しかるに、右金額が当期の確定申告において、売上から除外(架空返品計上)され、これに伴い、期末棚卸高が三六万円仮装計上されていることも明らかである。

関係証拠によると、平成五年一月中旬ころ、渡邊幹康税理士が被告人に対して被告会社の当期の決算書案の説明をした際に、被告人が渡邊税理士に対し、「ジェイズアクティに売った商品は返品を受けている。あれは売上じゃない」などと文句を言い、この商品を被告会社が当期末までに売上代金と同額を支払って引き取ったかのように誤解されかねない説明をしたため、渡邊税理士において、そのように誤解して前記のような税務処理をしたものであること、被告人は、その後決算書において売上高が右の案から二〇〇〇万円以上も減額されていることを知り、この関係で渡邊税理士が何らかの操作をしてくれたものと察しつつ、確定申告に及んだものであることが認められる。

右事実関係に照らすと、被告人に右売上除外等についての故意が欠けるとはいえず、所論〈1〉は採用できない。

三  所論〈2〉について

証人鈴木孝樹及び同鈴木雄一の各証言ならびに被告人の公判供述を全面的に信用するとしても、被告会社の役職員をしている被告人の息子二人(両証人)は、それぞれ別に住居を有しているが、夜遅くなったときに時々父親である被告人の家に泊めてもらうこともあったというだけであるから、被告人の肩書き住居は、社会通念上、被告会社の社宅であったなどとはいえないことが明らかである(被告人の住居が被告会社の役に立っているというのであれば、息子二人のことをいうよりも、社長である被告人が毎日寝泊まりしているというべきであろうが、だからといって、社長の自宅が当然に社宅と見倣されるわけではない。息子らがホテルに宿泊すれば、現実にホテル代等がかかるが、父親である被告人宅に泊まれば特段の費用がかかるわけでもない。息子らはこのようにして経費節約に努めたということであり、ホテルに泊まった場合と同様に取り扱うことはできない)。なお、関係証拠によると、被告人の住居に関する被告人と被告会社間の賃貸借契約書(平成三年一二月二五日付)は、当期の確定申告に利用するため、平成五年一月に日付を遡らせて作成されたものと認められる。

したがって、所論〈2〉も採用できない。

(量刑の理由)

本件は、遊技用電子機器の販売等を目的とする被告会社の社長であった被告人が、三事業年度にわたり、合計四七六五万円の法人税を脱税したという事案であり、ほ脱率は通算約八一.四パーセントである。このような脱税額、ほ脱率、犯行様態のほか、被告人の反省状況、被告会社の納税状況等をも総合考慮して、主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社・罰金一五〇〇万円、被告人・懲役一〇月)

(裁判官 安廣文夫)

別紙1 修正損益計算書

〈省略〉

〈省略〉

別紙2 修正損益計算書

〈省略〉

〈省略〉

別紙3 修正損益計算書

〈省略〉

〈省略〉

別紙4 ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙5 ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙5 ほ脱税額計算書

〈省略〉

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